特養(特別養護老人ホーム)では、どんな食事が提供されているのか、興味を持っている方も多いのではないでしょうか。高齢になると、どうしても噛む力が衰えてしまい、硬いものが食べられなくなり、食事にも工夫をする必要が出てきます。生活の場である特養を含めた高齢者施設では、毎日の食事をおいしくしっかりと召し上がっていただくために、さまざまな工夫がなされています。
ここではそういった施設での食事内容や食事形態の種類などを詳しく紹介します。
まず、特養について説明します。特養、いわゆる特別養護老人ホームとは、介護が必要になった高齢者が入所する施設のひとつで、基本的には要介護度3以上の高齢者が生活をしています。
食事はもちろんのこと、入浴や排せつなどの介護や、日常生活を送る上での健康管理などを受けられる施設です。利用人数はその施設によって違いがあって、居室も個室から多床室と様々です。特養は多くの方に、入所をするとそこが終の棲家になると認識されています。
特養では、食事内容にも工夫がなされています。高齢になると、噛む力や飲みこむ力が弱くなるため、全体的に柔らかめの食事を提供します。
特養のような高齢者施設では、一人ひとりの入所者に対して、「介護食」としての区分(日本介護食品協議会で定められている)に沿って食事内容を考えています。区分は大きく分けて4つ、そこからさらに食べやすいような工夫を施していきます。
普通のご飯を容易にかみ砕いて飲みこめるレベルの人たちで、硬い物はやや難しいという場合は、少し大きさを工夫すれば問題なく食べられます。
かみ砕く力と飲みこむ力がやや弱い人向けです。基準として木綿豆腐のような食品を歯茎でつぶすことができる力がある人というレベルと言えるでしょう。
食材を細かく切る・柔らかくするということで飲みこみが可能になるレベルの人に対する工夫もなされます。絹ごし豆腐を歯茎でつぶせる人であれば食べることが可能ですが、お茶などの水分ではむせてしまう傾向があります。
かみ砕く・飲みこむという力が弱く、ペースト状のものでないと食べにくいレベルで、水分もそのままでは飲みこむのは難しいレベルの人にも適した食事が配膳されます。
あくまでもこれは基準であって、その施設によって栄養士などの専門家が、入所者のレベルに応じた食事形態を考えて提供しています。また、特養では、季節に沿った「行事食」なども提供されます。そして、和風・洋風・中華と、さまざまなメニューで変化をつけています。
施設の生活の中で、食事というのは、栄養を確保するだけでなく、食べる楽しみを見出す重要なポイントです。楽しく食事をすることが、健康維持にも大きく役立つという点で、さまざまな工夫をしているのです。
特養では、先ほどの区分に加え、食事形態にも配慮しています。
食べるも物を小さく刻んで食べやすくしたものです。かみ砕く力がやや低下した場合に適しています。施設によっては、刻んでしまうのではなく、一口大にして提供するところもありますし、刻み方をもっと細かくした「超刻み食」という形態を取り入れているところもあります。
食材を柔らかく調理したものです。かみ砕く力が弱く、飲みこむ力も弱い場合に提供されます。施設によっては、この状態で刻み食として提供しているケースもあります。
調理した食事をミキサーにかけて液体状にしたものです。むせやすい人にはここにとろみをつけて、まとまった形にして提供します。嚥下というのは飲みこむ力のことで、飲みこむ力が減退した人に提供するという認識でいいでしょう。
手術後や体調を崩した後のために、食事がとれない人の食事形態です。重湯や上澄みなどがそれにあたります。最近では、少量でもカロリーが摂りやすい栄養剤を用いているところもあります。
こうした食事形態も、特養などの施設によって違いがあります。栄養剤をプリン上にして、補助食として提供しているところもありますし、お茶などが飲みこみにくい人には、とろみ剤でとろみをつけるだけでなく、寒天などで固めて提供するという方法もあります。
特養での食事形態がいくつかあることはおわかりいただけたでしょうか。飲みこむ力や噛み砕く力に沿った食事が提供されますが、楽しく・おいしく食べていただくという点で欠かせないのが、嗜好の対応ではないでしょうか。
しっかり栄養を摂ることも大事ですが、ご本人が好まない食材を提供してしまうと、食べる量も減ってしまいます。そこで特養などでは、入所時にご本人のし好を把握して、メニューの一部を変更するなどの工夫がされています。
アレルギーについても同様で、情報をきちんと収集して対応をしているので安心です。食欲が落ちたときに、お好きな物を提供したことで食欲が回復したというケースは多いので、好みの把握は欠かせない点だと言えるでしょう。
食事は生きていく上に欠かせないものではありますが、楽しみを見出す重要な時間でもあります。栄養士などの専門家を交えて、どうしたら毎日の食事が楽しくかつおいしく摂っていただけるのかを、特養では日々工夫を重ねているのではないでしょうか。